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大阪高等裁判所 平成11年(ネ)1501号 判決 2000年5月11日

東京都中央区<以下省略>

甲事件控訴人

破産者山一證券株式会社

(乙事件被控訴人。以下「控訴人」という。)

破産管財人Y

右訴訟代理人弁護士

吉田清悟

大阪市<以下省略>

甲事件被控訴人

(乙事件控訴人。以下「被控訴人」という。)

右訴訟代理人弁護士

佐井孝和

島尾恵里

主文

一  被控訴人と控訴人との間において、被控訴人が、破産者山一證券株式会社に対し、東京地方裁判所平成一一年(フ)第三九三六号破産事件につき、別紙債権目録一記載の破産債権を有することを確定する。

二  被控訴人のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを五分し、その二を被控訴人の、その余を控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  甲事件

1  原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  乙事件

1  被控訴人と控訴人との間において、被控訴人が、破産者山一證券株式会社に対し、東京地方裁判所平成一一年(フ)第三九三六号破産事件につき、別紙債権目録二記載の破産債権を有することを確定する(訴えの交換的変更)。

2  訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。

第二事案の概要

一  本件は、破産者山一證券株式会社を通して投資信託及びワラントを購入した被控訴人が、破産管財人である控訴人に対し、右破産者の適合性原則違反、説明義務違反等を理由に、不法行為及び債務不履行に基づく破産債権(損害賠償請求債権及びこれに対する遅延損害金)の確定を求めた事案である。

なお、被控訴人は、原審において、山一證券株式会社に対し、右損害賠償の支払請求をしていたが、同会社が原判決後に破産宣告を受けたため、当審において訴えを変更し、本件債権確定の訴えを新たに提起したものである。その経緯に照らし、右訴えの変更は交換的変更の趣旨と解するのが相当であり、また、控訴人は、旧訴の取下げに異議を述べず、新訴に対し応訴していることが記録上明らかであるから、旧訴については取下げの効力が生じており、当審における審判の対象から外れたと認められる。

二  基礎となる事実、争点及び当事者の主張は、以下に補正するほか、原判決「第二 事案の概要」のうち、原判決三頁八行目から同一八頁三行目まで記載のとおりであるから、これを引用する(右引用部分に「被告」とあるのは、原判決一二頁六行目の「あること等からすれば、」の次の「被告」、同一六頁六行目から同七行目にかけての「被告」及び同一七頁八行目の「被告」を除き、「山一證券株式会社」と読み替えるものとする。)。

1  原判決七頁五行目の次に行を改めて、次のとおり加える。

「7 山一證券株式会社は、平成一一年六月二日破産宣告を受け(東京地方裁判所平成一一年(フ)第三九三六号)、破産管財人として控訴人が選任された。

8 被控訴人は、右破産事件につき、原審で請求した債権の債権届出を行ったが、同年一二月一五日の債権調査期日において、控訴人から、右債権届出に対して全額異議が述べられた。」

2  同一二頁九行目の「原則どうり」を「原則どおり」と改める。

3  同一四頁二行目の「落ち度がない。」の次に、「仮にあったとしてもごくわずかであり、過失相殺はその限度で許されるにとどまる。また、過失相殺は損益相殺後に行うべきである。」を加える。

4  同一五頁一〇行目の「損率は低い。」を「損率は低く、本件のような小額の国内ワラント投資は、被控訴人にとって不適合ではない。また、山一證券株式会社には、ワラントにつき被控訴人主張の説明義務違反もなかった。」と改める。

5  同一八頁三行目の「過失相殺がなされるべきである。」の次に、「また、過失相殺は、損益相殺の前に行われるべきである。」を加える。

第三争点に対する判断

以下に付加、訂正するほか、原判決「第三 争点に対する判断」(原判決一八頁四行目から同五〇頁七行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する(右引用部分に「被告」とあるのは、すべて「山一證券株式会社」と読み替えるものとする。)。

一  原判決二三頁一一行目の「債権」を「債券」と改める。

二  同三二頁九行目から同三三頁六行目までを、次のとおり改める。

「証券投資において、投資者が利用しようとする相場は、将来の経済情勢、政治状況等の不確定な要素により絶えず変動するものであるから、証券投資は本来的に危険を伴う取引であるといえる。したがって、あえて証券取引に入ろうとする者が相場の下落による損失をも負担するのは当然であり、投資者は、開示された情報を基礎に、自らの判断と責任において、当該取引の危険性及び自己がその危険に耐えるだけの財産的基礎を有するかどうかを判断して取引を行うべきである(自己責任の原則)。このことは、株式の取引だけではなく、本件で問題となっている投資信託やワラントの取引についても当然に妥当するものである。

しかし、証券会社が相場を左右する諸要因をはじめとして、証券発行会社の業績、財務状況等についての高度の専門知識、経験、情報等を有している一方で、多くの一般投資家は、必ずしもこれを有せず、主として証券会社から得る情報等を信頼して取引の判断をせざるを得ない状況にある。このような状況の下では、専門家としての証券会社又はその使用人は、顧客に対し商品を勧めて販売する場合には、契約準備段階における信義則上の義務として、当該顧客が自ら申告する投資経験、投資目的等に照らし、明らかに過大な危険を伴う商品(不適合商品)の勧誘を回避すべき法律上の義務があるし、また、右商品が一般的に知られているかあるいは当該顧客がこれを熟知している場合を除き、同人が投資するか否かを判断するための不可欠な要素について、正しく認識できるよう説明すべき法律上の義務があるというべきである。

控訴人は、顧客に不適合な商品の勧誘を回避したり、投資判断のための説明をすることは法的義務ではなく、証券会社の単なるサービス行為に過ぎないと主張するが、それが採用できないことは、前記説示に照らし明らかである。」

三  同三五頁八行目冒頭から同一〇行目の「商品であるし、」までを、「しかし、一方では投資信託一般としては、昭和二〇年代から法定され(証券投資信託及び証券投資法人に関する法律。昭和二六年六月四日法一九八号)、顧客から集めた資金を債券や株式等に投資し、これによる損益を出資の割合に応じて顧客に帰属させる仕組みの商品であることは、一般の国民に周知されていると認められるし、」と改める。

四  同三八頁六行目の次に行を改めて、次のとおり加える。

「これに対し、控訴人は、本件のような小額の国内ワラント投資は、被控訴人にとって不適合ではないと主張する。しかし、多額の余剰資金の極く一部を投資する場合であればともかく、当時被控訴人に余剰資金などなかったことは引用にかかる原判決説示のとおりであり、ワラントが危険性の高い商品であることを併せ考えれば、本件のワラント買付価額九五万六〇〇〇円が一般には小額と評価されるものであったとしても、なお被控訴人にとって適合性はなかったというべきである。」

五  同三八頁八行目の「そして、ファンダメンタルの勧誘においては、」を「被控訴人がファンダメンタルを購入するについて適合性はあったとしても、それは預金とは異なる上に、原判決説示のとおり、投資信託としては五段階で危険の大きな方から二番目に分類される商品であったのだから、」と改める。

六  同四〇頁一一行目から同四一頁にかけての「最低限行使期限の経過によりそれが無価値となることの説明は必要であるところ、」を「原判決説示のとおりそもそも被控訴人には投資不適合な商品であるから、その勧誘が債務不履行又は不法行為にならないとするためには、被控訴人のような投資経験に乏しい者にも商品の仕組みが理解可能となるような懇切な説明が必要であり、最低限行使期限の経過によりそれが無価値となることの説明は不可欠であると解すべきところ、」と改める。

七  同四二頁二行目の「損失額が確定したとき」の次に「、すなわち当該証券を売却したとき」を加え、同六行目冒頭から同四三頁六行目の「一〇年と解される。」までを、次のとおり改める。

「次に、本件訴求債権(債務不履行としての適合性原則違反、説明義務違反による損害賠償請求権)が商法五二二条の消滅時効にかかるか否かにつき検討するに、同条の適用されるべき債権は、商行為に属する法律行為から生じたもの又はこれに準ずるものであることを要するところ、本件訴求債権は、被控訴人・山一證券株式会社間のファンダメンタル及び新日鉄ワラントの購入契約によって生じたものではなく、右購入契約によって生じた債権が例えば履行不能による損害賠償請求権のように変形したものでもなく、購入契約に向けた準備段階における信義則上の義務違反により発生したものであるから、必ずしも商行為に属する法律行為から生じたもの又はこれに準ずるものとはいい難い。また、商法五二二条の趣旨は、商取引における迅速性を確保することにあるが、本件訴求債権の内容は非定型的で、訴求するとしてもその義務の有無、内容の確定など困難な事情が生じ、一般の商取引におけるような迅速性を要求することが妥当か否か疑問が残るところである。かかる性質を有する本件訴求債権について、同条の趣旨が及ぶものとは考え難く、時効期間は民法上の原則に戻って一〇年と解するのが相当である。」

八  同四五頁一〇行目冒頭から同四六頁二行目の「見受けられないこと」までを、次のとおり改める。

「ファンダメンタルは、株式投資信託の一種であるが、株式の組入枠に制限を設けず積極的に投資して信託財産の成長を目指すもので、ワラントを組入れることができるなど、公社債投信や株式型投信に比べ新規性を有しその特性が理解しづらい面があることは確かである。しかし、他方において、被控訴人は、ファンダメンタルにつき、少なくとも利回りの変動があることまでは認識していたこと、投資信託自体は新商品ではなく前記三で補正済みの原判決が説示するような基本的な性格を知ることに困難な事情は特に見受けられないこと」

九  同四七頁八行目の「七割」を「五割」と、同四八頁一一行目の「自然であること」を「自然であり、ことさら被控訴人に対しリーフレットの送付をしない理由が見当たらないこと」とそれぞれ改める。

一〇  同四九頁一〇行目の次に行を改めて、次のとおり加える。

「以上によれば、被控訴人の損害賠償請求権の額は、ファンダメンタルに関し一五二万六二五〇円、ワラントに関し九五万四六二七円となり、合計二四八万〇八七七円となる。」

一一  その次に行を改めて、次のとおり加える。

「(三) 過失相殺と損益相殺の順序

控訴人は、過失相殺後に損益相殺をすべきであると主張する。しかし、それは損害の発生を説明時又は買付時と解することを前提としているものであるところ、かかる解釈が採用できず、売却時に損失が確定し、その額は購入額と売却額との差額、すなわち損益相殺後の価額と解すべきことは、原判決説示のとおりである。そうとすれば、過失相殺が損益相殺の後に行われるべきことは明らかであるから、控訴人の主張は理由がない。」

一二  同四九頁一一行目の「(三)」を「(四)」と改める。

第四結論

以上によれば、被控訴人の訴え変更後の本訴請求は、被控訴人と控訴人との間において、被控訴人が、破産者山一證券株式会社に対し、東京地方裁判所平成一一年(フ)第三九三六号破産事件につき、別紙債権目録一記載の破産債権を有することの確定を求める限度において理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとする。なお、控訴人の控訴にかかる甲事件については、前記のとおり既に旧訴についての訴えの取下げが効力を生じている以上、裁判する必要はない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松尾政行 裁判官 熊谷絢子 裁判官 坂倉充信)

<以下省略>

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